マリアはベッド脇にあるイスに座り、タバコに火を点けた。

 ふぅっと息をつき、視線をルーシュへと向ける。

「お前に口はないのか? 近くにいるというのに、なぜ頭に直接言ってくる?」

「ゴメン…だって…」

 ため息混じりの紫煙を吐きながら、チラリと視線をルーシュに向けて呟く。

「まだ、怖いのか?」

 しばしの沈黙の後、うん、っと返事を返した。

 マリアはまた息をつき、灰を落とした。

 確かにルーシュが怖がるのも無理はない。

 独り寂しく、音も色もほぼ無い白い世界にいたのだから。

 魔族には死んだとされていたルーシュ=デモンが、なぜここに生きて、記憶を無くしているのか?


 オルレアンの聖女にしか伝わっていない伝承が、今まさに二人の過去の記憶を呼び覚まそうとしていた。






 魔族を統べる貴公子、ルーシュ=デモン。





「必ず…必ずあなたを見つけるから。

 待っていて…」