木々の根っこでこけそうになりながら歩いた。

 霧が少し晴れ、辺りの様子が明らかになっていく。

 目の前には湖が広がり、その周りには香り高い色とりどりのバラの園。

 その湖の中心には、白いグランドピアノが浮かんでいる。
 そして、オレンジに輝く長い髪を靡かせる少女が音を奏で、歌っていた。

 人間にしては絶対有り得ない光景。

 ならば、天使か、悪魔か?

 その疑いを無くすかの如く、そして心の奥のトゲを抜いてくれるような優しいメロディに、フェンリルは聞き惚れていた。

 演奏を止め、フェンリルに視線を向けると、その少女は優しく微笑んだ。

 フェンリルと同じ、オッドアイの瞳で。

「ア…アニエス…!」




 三人はとある村の店で一息ついていた。

 店主から軽い食事とコーヒーを出してもらい、静かな休息をとっていた。

 いつもならルーシュとフェンリルが、暴れ馬のように喧しく食べ物を取り合うという光景が勃発するのだが、元凶の一人がいないだけでこうも静かなのだ。