数百年に一度、特殊な能力を持つマリアが生まれるという言い伝えがあった。

 その一つが『聞こえる耳』だ。

 その人物の心の奥底に眠る、秘めた声が聞こえるというものだ。
 初めはコントロールができず、その『声』に飲まれそうになったが、先代のマリアがよく引き戻してくれたらしい。

「なるほどね。だからルーシュの声も聞こえたってわけね?」

 最後のタバコに火を点けながら頷くと、ファブニルは納得した表情を見せた。

 今まで何も言っていないのに、『五月蝿い』『やかましい』といった言葉が出てきてきたのは、だれにも聞こえない『声』を聞いていたからのこと。

 ファブニルはカップを手に取り、小指を立てながらコーヒーを啜った。

「お前やフェンリルを見つけたときもそうだ。悲しみと苦しみ、絶望に満ちた悲痛の叫びがうるさかったからな」

 タバコを灰皿に置き、コーヒーを飲む。