ルーシュは慌てて部屋から出て行き、笑顔で階段を下りていく。

 ファブニルはそれを見送り、クスッと笑った。

「あなたと違って、素直に育ったわね? あの子が誰であろうと、何者であろうと、ルーシュはルーシュ。代わりはいないわ。あら? 独り言って、けっこう声にでるものなのね?」

 そう言い残すと、静かにドアを閉めて階段を下りて行った。

 足音が聞こえなくなると、マリアはゆっくり目を開ける。
 体を起こし、胡座をかきながら髪を撫でた。

「ったく。パクってんじゃねーよ。ぐくっ!」

 急に胸のタトゥーが激痛を走らせ、右手首が赤い炎を上げた。

 十字架の下の部位が青から赤に変わり、炎が上がった手首にはガーネットのブレスレットが現れた。

 荒く息を吐きながら、ブレスレットを見下ろす。

「まさか…南のマリアが殺られるなんてな…」

 小さな舌打ちをし、意外だというような言い方をすると、マリアはベッドから下り、ドアの横にかけてあったローブを着て部屋から出て行った。