「…博信………。」





彼を名前で呼ぶなど、



二度とないと思っていた。





なのになぜ………











心は……



正直だ。





「…なんで……?」



やっと言葉を絞りだす。




「……わこを……奪いに来た。」





「………どいてよ…、私、約束が……。」







「…行かせない!」







気づけば私はいつの間にか…



久住の腕の中に、すっぽりと収まっていた。





「…離して。」



「…………。」



「…離して!」





言葉とは裏腹に……



全身の力が抜けて、抵抗すらままならない。





「……好きだ。…だから……、行くな。」






ああ……




やっぱり博信は、私を惑わせる。









身体に伝わる温もりが、



彼の全てが……




私を……
溶かしていく。










いつしか私は…




彼に身を委ね、大きなその背中にそっと……




腕を回していた。






「…寂しい思いをさせて……ごめん。」




博信の言葉が……



疲れていた身体に、じんわりと染みていた。





私は……






独りじゃない。




独りなんかじゃ…



なかった。














   第3話 END