…さすがだな。



初対面の演技をしている……？



「そろそろ…ＣＭの話、いいですか？」



晴海くんの言葉に、久住は小さく頷いて…



しっかりと、交互に彼等の顔を見据えた。










ひと通りの説明を終えると……



「…僕等は…恋人っていう設定でいいんですよね。」



晴海くんがポツリと呟いた。




「…はい。これから家族になる約束をした…、『未来の家族』。」



「なるほど。なら…、いちか、やれるだろう？」


「…でも……。」




「…あの…、菱沼さん。」


私は口を挟む。



「…これから作る家族…、それが最愛の人とならば、幸せを築いていけるって…そう思いませんか？愛を与える、大切な存在を…自分が守って、そして守られていくんです。そんな希望に満ちた『恋人同士』を演じられるのは…、あなたしかいないと、私達は思っています。宇野さんを選んだのも…、彼ならそんな菱沼さんの優しい愛情を受け止められる、そんな俳優さんだと知っているからですよね。……やってみませんか。たった３０秒の世界ですけど、それが全てを物語る。心に残る一瞬を…一緒に作って欲しいんです。」



「…………。」



菱沼いちかは…


じっと私の顔を見た。




「…あなたは…愛されて育った人なんですね。」



「……え？」



「…滲み出るのよ、表情に。瞳に……。一点の曇りもない。素直で従順……。きっと損する性格ね。私とは…正反対。」



「………。」





「…家族の愛を受けたことのない私が、どうやって演じればいいのか自信がなかった。安易に引き受けたことを…後悔した。家族』っていう設定は、それだけ難題だった。自分の身の置き方が…わからないと思ったから…。」



「…作っていけばいいんです。もらいそこなった愛を…その分、与えていけばいいんです。自分の形で、自分のペースで育んでいく…、そんな恋人から家族に変わる瞬間を演じて下さい。」


「………。」



「最高の幸せを、演じて下さい。」



「…あなた…、ご家族は？もう結婚しているの？それとも…恋人が？」



「…！いちか…。」



晴海くんの顔が、一瞬強張る。



「……家族は…、もういません。恋人も…結婚も……。………。」