ソラナミダ

発言した当の本人・木村さんは…既にそっぽを向いていた。



そっか…、
だから木村さん…。



「菱沼いちかに、OKもらえるように頑張ります!」


「お~、そうかぁ~。まあ頑張れ。」






何だかんだ…

木村さんって面倒見がいいなあ。




そうだな…、社員からしたらお父さん的な…?



私はそんな木村さんを横目に…


デスクに座り、大きく息を吐いた。




忙しかったとはいえ、約束を忘れてしまうなんて…

有り得な過ぎる。



だから…


今日会えるのなら、なんとか謝りたい。



面とむかって…


誠意をもって…


謝るんだ。










…と、心に誓ったのもつかの間……。






「この度菱沼さんにご出演いただく三ツ葉保険のCMを担当しております、『ASアドコーポレーション』営業部の久住と申します。よろしくお願いいたします。」


「…同じく平瀬と申します。」



「…………。ハイ。」



ファッション誌の撮影の合間……


キラキラとしたライトが照らす、その華やかな笑顔……。



その人を目の前にして……



私の身体は、大きな緊張とともに…


カチンコチンに固まってしまっていた。



憧れの若手女優。



そのオーラは圧倒的で……



自分がその人に対峙しているその事実に、どこかまだ実感が湧かなかったのだと思う。




久住がコンテを見せながら懸命に説明するのを……



私はただ黙って見ることしかできなかった。