「平瀬さん!」
「は?平瀬…?」
「わこっ!」
会社に着くなり、せわしく動いていた社員達が…
一斉にこちらに振り返った。
「…わこ、大丈夫なの?」
「うん。」
心配そうに…
美帆が近づき、声を掛けてくれた。
「平瀬、お前何で来たんだ。」
次は厳しさうかがえる低い声。
…木村さんだ。
「…私一人が休むワケにはいきません。」
「………。」
木村さんはふうっと一息ついて…
それから、私の肩にポンっと手を置いた。
「馬鹿野郎。でも…助かった。」
「……ハイ!」
「みんな、聞いてくれ。さっき久住から連絡が入った。いちかサイドはキャスティングの追加で手を打つと。その意向に沿って制作し直すことで合意を得た。クライアントのコンセプトは重視しながら大幅に手直したい。期限は…明日の正午。あがったをコンテをまずはクライアントに見せ、了承を得たらプロダクションに出向いて直接彼女に交渉だ。」
「…あ~あ、今夜は徹夜かあ…。」
「……だね。」
「木村さん、もう一人のキャストは?」
「…いちか本人のたっての希望だ。【宇野晴海】でいく。」
「………!」
え。…晴海くん?
「彼なら彼女の魅力を最大限に引き出せるだろう。ドラマの共演が尾をひいて、いい宣伝効果も期待される。じゃあ早速だが…、時間がない。各自とりかかってくれ!」
「……ハイ!」
いつかはもしかして…とは思っていた。
でもまさか、こんなに早く……
晴海くんの出るCMを手掛けることになるなんて。
それに……
確かに俳優として、人として、彼には魅力がある。
でもなぜ……
彼女は彼を選んだのだろう。
「…おっと…、仕事仕事っ!」
両手で顔をパンパンっと叩き……
私はデスクに向かう。
タイムリミットは……
すぐだ。


