ソラナミダ

目深に被ったニット帽。



キュッと上がった口角。



私を見る涼しげな大きな瞳……。





「……え?…は?……何で?」



私がその人物に気づいたのは数秒後の話で……



急にあたふたする私を、
木村さんと美帆が不思議そうに見ていた。



「こんばんは。」



「……こんばんは。」



いやいや、呑気に挨拶してるけど……


こんな狭い店に堂々と……、大丈夫な訳?!



「?何だ、お前ら知り合いか?」


木村さんの鋭いひと言。



「…お隣りさんなんスよ。」



「…はあ?!平瀬が?」



「彼女がCMプランナーだとは知ってたけど…、まさか木村さんと同じ会社だとは思わなかったです。」


「…平瀬、お前ちゃんと近所付き合いしてたんだな。偉い偉い。」



そこ…、誉めるとこ?



「…へえ…、お隣りさん?」


黙っていた美帆が口を挟む。



ヤバいんじゃないの…?

芸能人ってバレたら…



「…初めまして、わこの同僚で友人の佐倉美帆です。」



「…どうも、晴見です。」



「ハルミさん、イケメンですね。」



「…いやいや、木村さんほどでは。」



晴海くんがそう言うと、
彼の頭を木村さんが小突いた。



「どんな謙遜だよ、バカやろう。」


それでも木村さんはまんざらでもなさそう。



「事実ッスよ。」



二人とも酔っているのか…


男同士でじゃれ合っている。



木村さんのこんな砕けた姿、初めて見た。


それに……


楽しそう。



「せっかく盗み聞き楽しんでたのになあ…、まあ、仕事も恋愛もほどほどに楽しんで。…恋は女の武器だ。一丁前のプランナーになりたいなら沢山した方がいい。」



「…木村さん!人事だと思って…。」



「…そうですよね、もっと言ってやってください。」



「…もう、美帆まで…。」