「平瀬ー、お前、ベリーズの新商品のCMに挑戦してみないか?」
木村さんに呼び出され、そんな話をされたのは……
世が、いわゆる「夏休み」を終える8月の末のことであった。
クライアントは、大手化粧品メーカー。
女子社員にとっては、この仕事は是が非でもやってみたいもの…。
当たれば、プランナーとしての知名度はもちろんのこと、憧れのクリエーターに近づく…大チャンスである。
私は、二つ返事で…承諾する。
木村さんは、満足そうに頷いて……、言葉を続けた。
「久住がとってきた最後の大仕事だ。奴への餞になるように…総力上げて取り掛かってくれ。」
「……え…?最後…?」
「……ああ。久住は12月いっぱいで退職願を出している。」
「…………!」
「出世コースまっしぐらだなあ、あいつは。逃がした魚はデカかった、てか?」
「………。決めたんですね、久住さん。」
「……ああ。引き止めるなら今だぞ。」
「………。いえ。仲間の門出を邪魔はできません。」
「……。仲間…、ね。いい響きだ。俺はな、お前らコンビの仕事が好きだったんだよ。もう一度…、見ることができるなら、そんな嬉しいことはねぇなあ…。」
「……はい。」
「期待してるよ。」
「………ハイ!!」


