「…俺、その日外で昼を食べようとちょうど会社を出た所で…お前たち親子に出くわした。」
「……ありましたね、そんなこと…。」
「笑って挨拶されて。ああ…、あの写真の女性だと…一発で思った。」
「…………。」
「確信した。だけど…、そこでもまだ俺は。言えなかった。平瀬。お前みたいな子供がいると晴海が知ったら……、ショックを受けると思ったんだ。血は繋がってなくても、お前と彼女の笑い方は…とてもよく似ていた。」
「…私と…お母さんが…?」
「……共に長く過ごしてこれば…当然かもしれない。どこをどう見ても…幸せな母子だ。お前は『過保護だ』って笑ってたけれど…、俺は正直笑えなかった。保護すべき子供を…、晴海を、捨てて手に入れた幸せだと…思っていたから。」
「…………。」
「…な?…言えないだろ?」
「………。…はい…。」
「でも今は…、もっと早くに言えば良かったと…後悔している。」
「…………。」
「事故に…遭って、お前が悲しみに暮れている時に……。あいつもまた…、ニュースを見てしまった。大きく騒がれた事故だったから目にもついただろう。母親の名前を見て……晴海はもしかして、って…気づいた。亡くなってしまって、もう会うことはできないとわかっていた。だから…、そこで初めて、その女性はうちの社員の母親だと、まるで偶然名前を知ったかのようにして…教えたんだ。」
「………。」
「あいつは…、立派な大人だ。頭だっていい。だから…、あとは奴の判断に任せようと考えた。それが……、まさか、だ。引っ越しするとは聞いていたものの、お前の隣りの部屋に越すなんては…予想できなかった。」
「………。」
「『のんべえ』で会った時は驚いたよ。しれっとした顔して…いつの間にやら親しくなってるし。それに…、奴の考えていることがわからなかったからな。母親が残したものを…何か、見出だしたかったのか、自分を捨てた女の子供に報復してやろうとしてたのか。目的が…見えなかった。」
「……………。」
「けれど……、お前に会ってから、あいつは変わっていった。笑い方が…優しくなった。まさに…あの人の忘れ形見を。あいつは……手に入れたんだ。まあ…、まだ気づいちゃいないかもしれないが。」


