ソラナミダ







木村さんも椅子に腰を掛け、左右に揺らしながら……



ゆっくりと、言葉を綴っていく。





「……晴海の母親は……奴が4歳の頃に、家を出て行った。原因は…父親の暴力。市の機関が母子をシェルターに匿ったこともあったそうだが…、繰り返してどうにもならなかったのだろう。晴海だけを置いて…逃げて行った。離婚が成立して、父親に引き取られた晴海にも…暴力の手が来て。近所に逃げ込んだこともあり、ついには警察が動いた。晴海は当然保護されて、父親は自ら姿を消して。見つかることは…なかった。財布も、身分を証明する物も、何もかもを家に残したままだったらしい。もしかしたら…自殺を図ったのかもしれない。真相はもうわかんねぇけど。その時に…、俺の叔父が、養護施設の施設長をしていて……。奴のいわゆる監護者になった。」




「…………。」




「初めはさ、叔父に対してもそうだったらしいけど…、大人の男の人への警戒心は半端なくて。叔父は自由な人で…、結婚もしてなくてさ、でも…子供好きだったから、何度も何度根拠強く関わりを持っていくうちに…晴海も変わっていった。初めて子育てしてる感じだったんだろうな…。」



「………きっと…、そうだったんでしょうね。」





「…児童養護施設っていうのはさ…、いつまでもいれる場所じゃなくて。自立するか、保護者と面談して、大丈夫だという保障ができたら…退所することになる。晴海が折角仲良くなった同い年くらいの子供達も…どんどんいなくなって、また、新しい子供が入所して。その…繰り返し。叔父はそのうち定年を迎えて、施設を離れて…。そしたらさ……、晴海がまた笑わなくなったって連絡が来て…、叔父は、そこで晴海を自分の家に迎える覚悟を…決めた。」



「……!じゃあ……。」




「……ああ。俺の叔父が…、奴の保護者になって。俺は、あいつとは…歳の離れた従兄弟になったってワケだ。そん当時…、兄妹みたいに親しくしていたのが…、菱沼いちか。彼女を置いて出ていったことに…晴海は今だ負い目を感じている。馬鹿だよなあ、誰も悪くなんてないのに。」




「……そう…、だったんですね。」




「叔父はよく俺ん家に晴海を連れて来てたから…、兄弟のいない俺にとっちゃあ弟分で。生意気だけど、かわいいもんだ。遊びにも連れてってやったし面倒もよく見たつもり。」




「…………。」