晴海くんが歩く、その斜め後ろから…半歩遅れて、私は…ついていく。
掌にまだ残る彼の温もりを…握り締めて。
静寂な夜道に…虫の音が響く。
数時間前には、喧騒の中にいたのがまるで嘘みたいに……
忙しい日常が、存在しないかのように……
ゆっくりと……時間が流れている。
ここには、私と…彼しかいない。
人の目も…気にすることはない。
きっと、彼だって…解っているのだ。
私達には……
今、
逃げ場だってないってことを………。
「ここの温泉街の旅館に…、親戚の女将さんがいるんだ。」
「………うん。」
「血の繋がりはないんだけど…、よくしてくれてて。たまに…、休みたい時とか、一人になりたい時に……ここに来る。」
「……うん。」
つまり……、晴海くんは今……、休みたいって、一人になりたいって…こと?
「ほら、あそこ……、あの岩場。」
「…ん?」
「足湯。……行ってみない?」
「……うん。」
また……、
晴海くんの手が……、私の前へと、差し出される。
「…………。」
どうするのかが…正解なのかは、わからない。
でも……
屈託ないで笑う彼のその笑顔が……
この、暗闇に消え入りそうで。
思わずその手を……掴んだ。
繋いだ手と手。
じんわりと汗ばんでいるのに……
冷たく感じた。
ずっと、ずっと、こうしたかったはずなのに……
手にした瞬間に……、
怖くなった。
また、離れる時が来ると……
わかっているから。


