『わこ、大丈夫。俺が…いるから。』
「大丈夫」と、私が母へ言ったその言葉を繰り返し伝えてくれたのは……
博信だった。
側にいて、絶望の淵から救ってくれたのも……
彼だった。
きっと私は……
誰かに言って欲しかったのだ。
『大丈夫だ』、と………。
誰かに、許されたかったんだ……。
私は…携帯を手に持つと。
震える指先で……
数字を押していく。
いちかさんと……同じだ。
毎日掛けていたから……
指が番号を覚えている。
頼って、依存して……
また、同じことを繰り返してしまうのかもしれない。
けれど、
唯一、今頭に思い浮かぶのは……。
『俺と…、離れない約束をしてくれないか?』
『安心が欲しかっただけ。わこ、俺達…、結婚しないか。」
私とは正反対の……、真っ直ぐで、誠実な声。
通話ボタンを押してものの数秒もたたないうちに…
女性アナウンスの声が聞こえてくる。
『お掛けになった番号は、現在ー………』
「……当たり前…か。」
仕事を抜け出したのは…私。
彼のいる場所から飛び出したのは…私。
電話に出るはずも……ないのだ。
「…………。」
現実を見ろ…、ということであろう。
結局……、帰れる場所は一つ。
沢山の笑顔で溢れていたはずの、あの部屋だけ……。
携帯を閉じて……。
私は、また…喧騒の中を歩いて行く。
もう…、誰も待つことのない、あの部屋へ……。


