私だって事情を知りたかったけれど、どうやら…無理なようだ。
ならば、もう……
覚悟を決めて。
私は一度呼吸を整えると……
「…よし。」
自分を納得させて。
それからまた……
ある名前を探す。
今度は……、
いや、今度こそ……
いちかさんだ。
流行りの女性シンガーの曲が暫く流れて……、
それから、留守電へと…切り替わる。
すぐに繋がるなら…晴海くんも苦労などしない、か……。
ましてや知らない番号の相手に…出るハズもない。
「……もしもし、私…平瀬です。今朝は見送りもできずにすみませんでした。もし…この電話に気づいたら、連絡下さい。それじゃあ……。」
……これで…掛けてきてくれるといいけど…。
電話を切って。
その……直後であった。
ブルブルと…手の中で、携帯が震え始めた。
「はい、もしもし?!」
つい、興奮ぎみに…電話に出る。
『…あ…、平瀬さん?ごめんなさい、知らない番号だったから…出れなくて。』
いちかさん……!
「あ…、こっちこそ。忙しいのにごめんなさい。」
いちかさんの今の状況を知っていると…悟られないようにしなくては。
『…大丈夫、今日は雑誌の取材だけで半日オフだから。』
「…あ…、そうなんですか。」
『平瀬さんこそ、お仕事なんじゃないですか?』
「………。いえ…、今日は午後休暇とったんです。明日はオール決定なので、とれるときに有休消化しないと上がうるさくて…。」
『じゃあ、お互い今フリーなんですね。』
「ええ、まあ……。」
いちかさんは至って普通の応対で……。
特に声のトーンに違和感などは感じない。
第一印象と変わらぬ、ふわふわとした、やわらかい声………。
『嬉しいです、電話かけてきてくれて。書き置き…見てくれたんですね。』
「ええ。今朝…顔も合わせなかったので大丈夫だったか心配で……。」
心配って言葉は…使わない方が良かったか…?
警戒されても…困る。
『ふふっ…、律儀ですねやっぱり。仕事もそうでしたけど。』
「…いえ、そんなことはないですよ。実際朝起きて見送ることすらできなかったですし。」


