「行ってきます!」
何ら変わらない朝の習慣。
返事がないことを確認して、振り返ることなく…
玄関を出る。
「…………。」
それから……
君がいる、右隣りの部屋の前を…
行ったり来たり。
インターホンを鳴らそうと伸ばす手が、何ともぎこちない。
「…………。」
自分を説得させるかのように、一度頷いて……
インターホンを鳴らす。
施錠が解かれるとほぼ同時に……
ドアが開いた。
「………おはよう。」
うなじをさすりながら、彼は顔を覗かせた。
「……おはよう。どうしたの?」
…あ…。
目が今にも閉じそう。
起こしちゃったかな…。
「…あの…、きのうコレ、忘れていったから…。」
私は晴海くんの靴を…、彼に差し出した。
「…そろそろ来る頃だと思ってた。」
「…めちゃ寝起きに見えますが?」
「なんの、これは演技です。」
「でも、寝癖ついてますよ?」
「……。マジですか。」
晴海くんが、髪を弄る。
そこでようやく…、二人の間に笑みがこぼれる。
よかった……、晴海くん、普通だ。
「じゃあ、コレここに置いておくね。」
玄関に彼の靴を並べ、彼に背を向ける。
「…ちょっと待って。」
手をぐいっと引かれて…
私は玄関の中に戻される。
…と、同時に……
バタンとドアが閉まった。
「……さすがに、あんなラブシーン見せられたら、引き返すしかないだろ?」
「………。」