「今、来ていた“さやか”さんって言う人は、上司?」
「そう。
彼女が、さやか・ダバリード。
女王さ」
にべも無く答えた。
「ダバリード」
涼は口の中で繰り返す。
聞いたことがあるような気がする。
女王って、どこかの国か?
後でネットで調べてみよう。。
「綺樹、野菜スープを作るから。
それぐらいなら喰えるだろ?」
「んー」
聞いていないような返事に、腹が立つ。
綺樹は、渡された携帯が電源を入れた途端鳴りだしたのに、また毒づいている。
スープを作りながら、リビングを伺うと、無表情な顔で電話をしながら、パソコンを操作している。
わめくようにまくし立てるのかと思ったら、そうではない。
静かにアルトの声で、淡々と話している。
英語なのに半分も話がわからない。
一つ電話が終わったと思ったら、またかかってきている。
切れ目がなさそうなのに、涼はスープをよそい、パンを添えてお盆をパソコンの横に置いた。
「ありがとう」
ちょうど電話が終わったらしく、携帯を置いた。
スプーンを手にして、時間に気が付いたらしい。
「ライナは?」
涼はダイニングテーブルに座って、自分の夕食を食べる。
「出張だってよ」
「出張?
ああ、そう」
綺樹はあっさりと納得して、空いている方の手で書類を見ながら、スープを口に運んでいる。
普通は、今夜二人きり、ということは、チャンスとかなんだろうな。

