あなたの”その”足元へ

「おかえりなさいませ」


低音が響き渡る。

よく言ったものだ。

綺樹はくちびるを歪めた。

手前にいた男が立ち上がる。


「大奥様がお待ちです。
 ご案内いたします」


綺樹は両手をポケットにつっこんだまま、斜に見上げた。

そして、母はこの男に殺された。

彼が母に対してどんな感情を持っていたのか、わかっている。

だから少しくちびるの両端を上げ、挑むような目をしたまま、母とそっくりの笑い方をする。


「久しぶり、治人」


 治人が動揺しないのは流石だし、動揺していてもそれを見せないのは、らしかった。


「こちらへ」


でも穏やかな水面も、ほんの1滴で波紋が起きる。

綺樹は残忍に笑ったまま、彼の背中についていった。