『なーに浮かない顔してんだよ!』
頭の後ろで手を組んだ晴樹が言う。
『…何でもありませんよ。』
柔らかく、紅は笑う。
『何でも無くねぇだろ。』
紅を壁に押し付け、真剣な瞳で見据える。
『…例えば、そう。
貴方は、崩れ始めた城に残りますか?』
『…は?』
唐突な問いに、晴樹は首を傾げた。
『…だから何でもないと』
『大切な。』
『…え?』
『大切なものが城の中にあるなら、俺は城が崩れても残る。』
晴樹の真っ直ぐな想いに身動きがとれない紅は、ただただその言葉を反芻するしかなかった。
『紅…』
そっと、抱きしめられる。
そして、何かを確かめるように、強く、強く抱きしめられた。


