『…どうしたんだ。』
紅の気配が消えたのを確認してから、哀歌の後ろに隠れてしまった泉水に問うた。
『…分かんねぇ。昔の嫌なこと思い出して、錯乱してんのかも。』
『…そうか。』
それ以上何も言わない哀歌に、少しくすぐったい泉水は、フゥッと浅く息を吐いて瞳を伏せた。
長いまつげが頬に影を落とす。
その影を滑るように、ホロリ、くすぐったいものが流れ出た。
それをパッと拭い、ズズッと鼻をすする。
『なんっか寒いな〜!
鼻水出てきちまうぜ!!』
ジュル、何度もすする。
『…ああ、そうだな。
眠れない夜は、ホットココアを作ってやる。だから安心して眠れ。』
哀歌の黒いコートの裾をキュッと掴んで離さない泉水に、しかし哀歌は一歩も動かずに、ゆったりと語り続けた。


