大広間には既に大勢の紳士や淑女達が集まっていた。
父親は、このときばかりは目一杯の愛想を振り撒いていた。
母親も隣でニコニコと微笑う。
俺も、ヒラヒラのドレスの両端を持って挨拶をする。
『まぁ!なんて可愛らしい!』
『お宅のお嬢さん、いくつでしたかしら。』
『本っ当に可愛らしいわぁ…。』
この節穴が!!
俺は男だっつぅんだよ!!
…なんて口が裂けても言えない。
香水臭いマダムの間を縫って、俺は一人 部屋へ戻ろうとした。
そのとき。
『泉水。』
ビクリ。肩を震わす。
コツ、コツ、コツ、と足音が近付いてくる。
『部屋、とってあるから。』
チャリ、ルームキーを渡された。
実の、父親に。


