長い廊下ですれちがった泉水には目もくれず、哀歌は神妙な面持ちで自分の部屋に入っていった。 哀歌の去った方向を見ていた泉水だが、やがて喉で鳴きながら足元に擦り寄ってくる猫に視線を落とし、腰を下ろして撫でてやった。 『…こんな世の中、要らないよな。』 ポツリと呟いた言葉が、猫の柔らかな毛並に吸い込まれていった。