私は大急ぎで支度を済ませ、家を飛び出して駅前へ向かった。駅までは歩きで約15分。風の無い蒸し暑い夜で、歩いていると背中にじっとりと汗が出て気持ち悪い。でも、小柳君が何かを企んでいると思うと、そっちの方がもっと不快だった。


 小柳君は和也に、もし私に会えないと何を言い出すかわからないと言ったらしい。それは和也を通し、間接的に私を脅したんだと思う。『来ないとばらすぞ』と。


 単に私の顔を見たら、それだけで満足するのかもしれない。その可能性はあると思う。あれからもう7年も経っているのだから、本当は私への興味など薄れていて、軽いノリで騒いでいるだけなのかもしれない。


 そう考えるのが妥当な気がするけど、それだけでは済まず、めんどくさい事になるような、そんな嫌な予感がしてならなかった。



 和也から聞いたスナックのネオンが見えて来た。

 私は引き返したい気持ちをグッと堪え、お店の前に着くと、深呼吸をひとつしてから、木のドアを手前にゆっくりと開いた。