私は男の腕を退かし、無言のまま服を着た。そして乱れた髪を手櫛で整え、バッグを持って立ち上がった。


「じゃあね」


「送って行けないぜ。俺、酒飲んでるから」


 男はそう言って缶ビールを掲げて見せた。私を送らない口実作りのため、わざと急いで飲み始めたに決まってる。前にも何度かそんな事があった。セコイ男!


「いい。タクシーを拾うから」


「そっか。またな?」


 私はそれには応えず、さっさと男に背を向けると、足早に男のマンションを後にした。もう、あの男と会う事はないだろう。

 あの男とは半年ほど続いただろうか。ある夜、行き付けのバーで私に話し掛けて来た見知らぬ男。顔が好みで、金持ちらしく物腰に品があったから、お酒の酔いも手伝い、その夜の内に深い関係になった。本当に上品な男なら、ナンパなんかするわけないのに。


 でも、段々と分かってきた。男が、自己中でスケベなだけの最低な奴だという事が。いや、そんな男に抱かれた私こそ、最低なのかも。


ああ、死にたい……