人間達はそれだけで済んだのだが、依頼を受けた術師の負担が大きかった。一番の負担が人間らしい感情を捨てること。


なぜそれが必要になるか。


それは彼らが人間だったからだ。


妖を葬るそれは術師にとっては人間を殺すことに等しい。


その頃の日本では人が人を呪う呪詛が絶えなかった。それを受け持ったのも術師だったのだが、それは月に一人いるかいないか。その時だけ自分という名の人間の心を捨て去ればいい。


しかし妖の場合月に倒す数は数十いや下手したら100を越えていたかもしれない。そんなあやかしを何もない暗闇の世界へ連れて行かせるには人間の心というのは実に邪魔だった。


だから術師は邪魔な感情を全て消した。


その後、術師は人間の心は壊れて行き、人間ではなくなった。人間の姿をした化け物となっていった。それでも術師は依頼を受け、こなし、自分でも仕事を作り、妖を葬っていった。


そんな術師は子を残すことも忘れていなかった。術師は子供が生まれたあと、息を引き取った。


心を失っていた術師は分かっていたのだ。自分に限界が来ていたことを。


何故なら心を失いかえていた術師は自ら自分の心を戻そうとしたからだ。戻させかけたのは彼が成り行きで助け、都合よくいたので子供を産ませようとした女性だった。彼女は別に優れているわけでもないただの女性であったが何故だが彼をそうさせる要素があったのだろう。


しかし一度失ったものは手に入りにくい。


そんな言葉を形にするかのように術師は死んでいったのだ。


彼女もまた助けてくれた術師のことを好きだった。だからこそ術師の血を絶やすまいと思った。術師の役目を途切れさせてはならないと考えた。そして術師のような人を増やしてはいけない、増やさないようにしたいと心に決めた。