「にいさんありが……」
途中で言葉が止まった。何故なら優しく撫でまわし、笑みを浮かべていた兄が豹変したからだ。
顔に浮かべるのは優しげではなく下品な笑い。いつもの兄とは違う。兄の周りからは陰に属する気が漂い、まるで、まるで妖のよう。これは兄ではない。これは兄を取り込んだ……妖の姿。
妖の視線は自分に注ぐ。まるで今にも食べようと、獲物としてしか見ていない視線が。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。助けて。誰か……。
幼いながらの怖ろしさを抱く心を聞き遂げたのだろうか。自分と兄が存在する部屋の入り口である障子が開く音がした。障子が開いた先から現れたのは……
