「そう、有り難う。
今更だけど、櫻澤結斗って知ってるわよね?」
櫻澤結斗―――私の息子。大事な大事な、愛しい息子。私の中では昨日会った結斗の姿ではなく、私が出て行く前の彼の姿で止まっている。精神も、純真で無垢でか弱かったあの頃のまま。いつもいつも彼の姿を見ている筈なのに、不思議なものだ。
彼女の表情が一瞬で変わる。悲しそうで儚げな表情に。これは結斗と何かあった、ということだろうか。それなら尚更だ。これが紫音ちゃんと結斗の関係を修復するきっかけになれば、少しは罪滅ぼしになるかもしれない。
「…知っています。同じクラスですから」
