敢え無くも去って行く結斗。
やっと掴めた孤独な細腕が離れていく。
久しぶりだったのに結斗は1度として、母という文字を出さなかった。
それもそうか。櫻澤本家の血筋を持つ者にとって一番大事な時期に手放してしまった。
あの時期にはとてつもなく大きな愛情が必要なのに。それを与える役目の母は逃げてしまったのだから。それでも彼は強く逞しく育っていた。
だがやはり結斗のことが心配だ。
確かに私情をはさんだことに見えるかもしれない。
それは事実だから。これは中立を守る櫻藤には相応しくない感情。
それでもね、結斗。私は結斗の傷は1つとして見たくないの。結斗の為なら、私の命だって捨てれるのよ。だって私は結斗の……
「母親だもの」
