何かに触れられていることは感じた。
きっとこれは誰かの手。ならば誰だろう。静寂《しじま》だろうか。
否、違う。静寂の手は少女にしては固い、努力の手。だが今触れられているのは柔らかい。水のような液体の中で溶けてしまいそうなほどに柔らかい。
櫻澤家の者にこんな手の者はいただろうか。否、いないだろう。皆の手を触れたわけでも、見たわけでもないが、各々武器を持ち本家の者に尽くす彼らの姿を見れば分かる。
きっと皆静寂のように固い手をしている。
ということは、ここは本家でも、分家のどこかでもないというわけか。ではどこだろう。
そういえば、意識が遠のく前に静寂ではない声を聞いた。あれはそう、懐かしい、昔幼い頃によく聞いた温かい声。まさかここは……。
「お早う……いえ、遅ようかしら、結斗」
