薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~



櫻澤家には様々な苗字を名乗る分家という奴があるらしい。それも櫻澤家以外の者には把握できないほどの数。


それくらいしか書かれていなかったからここまでしか分からない。


だからこれ以上把握できない場所には踏み込むことは出来ないが、本家と分家には雲と地ほどの差があり、本家は数多き分家を只の家臣としか思っていないように、分家の者は思っている。


それでも彼らは本家の者を尊敬し、敬い、ついて行くと誓っているというところだろう。だから本家の者とより近くで支えるのが生き甲斐。それは私と同い年の霧澤さんも一緒なのだろう。


しかも彼女は櫻澤君のことが――であろうし、より思い入れがある。だからこそ傍にいたいし、櫻澤君にも認めてもらいたい。自分という存在を。


それが彼女の存在意義であり分家としての誇り。その誇りも、存在意義も櫻澤君の傍で護衛をすることで保たれていたが、とある日から私の存在によって崩れ去りかけている。


その崩れが嫉妬へ変わった、ということだろうか。しかも私が無自覚の間に櫻澤君に気遣われ、心のどこかへ住みついていた。


それも許しまじきことだったのだろう。これ以上のことはよく分からないが。人の心情はよく分からない。嗚呼、本当に難しい。そして霧澤さんが羨ましい。