薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~



「へっ?」



「結斗様は、私が人と妖を救う側にいる貴女の立場を羨ましい、疎ましいと思っていると勘違いしているけど…違う。私は、貴女が結斗様と対等の立場であるということが羨ましくて、疎ましいの。

 だって私の家は櫻澤一族といえ、分家だもの。全てが等しく皆に権利がある藤岡家とは違う。結斗様が血を継ぐ本家と私が血を継ぐ霧澤家―――分家とは大きな差があるもの。

 分家が本家の者に逆らうことは許されない。本来本家の者と分家の者はなかなか話す機会なんてないのよ。

 まるで昔の帝人と農民みたいに。農民は帝の住まいに立ち入ることなんてできないでしょう。

 私達だってそうなのよ。それでも私が結斗様の傍にいて、本家の者が住まう屋敷に入れるのは、私が結斗様の護衛だから。

 しかも私が護衛に抜擢された理由だって、結斗様と同い年だから。元から私の一族が本家の護衛の任についていたから。そして分家の誰よりも強かったから。ただそれだけ。

 結斗様にとってはただの護衛にしか過ぎないのよ。私はそれを知っている。だからただの護衛、ただの分家の者、そう認識されない貴女が羨ましい。死ぬほどね。

 ……今日はもう帰った方が良いわよ。月が雲で隠されたし、弱い貴女はすぐに死んでしまうわ。私はそれでも構わないけど、きっと結斗様はそんな貴女を助けるかもしれない。

 それが一番厄介なの。だから早く帰りなさい。貴女が死ぬときは寿命で死ぬか、私に殺されるか……」