アキラは髪をかき上げて,複雑な表情になった。

 しかし,直ぐに営業用っぽい笑みを口元に浮かべる。

「人間になって,結構経ったケド。どう?人間は,楽しい?」

「……」

「戻りたくなった?」

 俯いたまま隆也は口を閉じている。

「まぁ,俺はイイけど。今なら夢オチに出来るしねぇ」

「夢,オチ……ですか」

「うん。獏が2,3匹居れば……出来ないことも無いかなぁ。何たってホラ,俺は霊験あらたかな神様だし」

 ベッドの上で足を組みなおし,架空の獏を数えるようにして指を折る。


「……それは,俺が人間になってからの事が夢になるって事ですか?」

「そうだよ。全部ね」

 “全部”。

 アキラは,ワザと強調した。

 それは,彼女が自分を人間として見ていた日々や,会話の内容,表情。

 その全てが無くなるという事を意味している。