灯火-ともしび-

「わ…っ…私はっ…。」

「はい。」


膝に置いた手が震える。
膝の上でぎゅっとその手を握ると、その手に大きな手が重なった。


ぱっと顔を上げると笑顔の彼がいた。


「ゆっくりでいいです。どうぞ。」

「…うん。」


ちゃんと聞きたいのは彼の方だ。そんなの分かっている。
だから言葉にしよう。彼は思いをはっきりと口にできる私に憧れてくれたのだから。


「…恋愛経験は正直、本当になくて…今まで自分を磨くことに一生懸命で、他の人がどうでもよいとか…そういうことではないけれど、でも恋愛ってものからはずっと疎遠で…。」

「はい。」

「だから、風馬への想いが恋愛って呼べるものなのか、私には分からない。
でも…心臓が有り得ないスピードで鳴って、顔が火照ってしまうような想いを…私は知らない。
これは…なんなの?」

「…そうですね。俺の場合は恋、ですね。
今日の夏海さんを見ているとまさにそんな気持ちになります。
ふわっと揺れる髪とか、香りとかにドキドキして、夏海さんが俺を見てくれる度に顔が熱くなる。」


〝恋〟
私が今まで経験してこなかったもの。分からない、感情。


「掴まれた腕も、繋がれた手も、向けてくれた笑顔も、抱きしめられたことも…キ、キスも…嫌じゃなかった…。」

「…嫌の反対、に言い換えてくれると嬉しいです。」


…もうひと頑張り、しないといけない。
言おう。ちゃんと。想いは伝わる。伝えようとするならば。





「…好き。」