灯火-ともしび-

「本気出すとこんなもんじゃないですけど…大丈夫ですか?」

「本気って…?」


話の意図するところが分からず、少し首を傾げる。


「…俺の理性なんて結構脆いですからね。
ていうか、夏海さんを送り届ける時にほとんど使い果たしちゃったし…。」

「はぁ!?」

「首傾げて上目づかいとか、もう魔王ですか、夏海さんは!大魔王ですよ!」

「なっ…か、仮にもすっ…好きな人に大魔王ってどういうことよ!?」


〝好き〟が言えないのはそう簡単には治らない。


「俺の理性を崩壊させる大魔王です。
…大魔王が好きすぎて、ちょっと狂っちゃいそうですよ。
大魔王に狂わせられているんでしょうね、多分。」

「は、はぁー!?」

「って夏海さん、ちょっと浴衣はだけちゃってます。直しますよ。」


そう言って襟元をしゃんと正してくれる。


「あ、ありが…っ…!な…!?」


すっと彼の頭が私の首元の方に曲がったかと思うと、生ぬるい感触が首筋にあたる。


ちくっと刺すような痛みが走ると同時にまたしても甘いリップ音が耳に残る。