灯火-ともしび-

「訊いてもいい?」

「…なんですか?」

「どうして私なの?」

「なぜ好きか、という質問ですか?」

「…そ、そうね。」


さらりと言われる〝好き〟の二文字に過剰に反応してしまうのは慣れていないせいだと信じたい。


「一目惚れ、に近いものだったと思います。
正直言ってしまえば見た目もですし、話し方や考え方…に憧れました。」


遠くに灯る火を見つめながら、彼は言葉を紡いでいく。
夏風がぬるい。


「少しずつ話すにつれて、俺の話をとても真っすぐ…真剣に聞いてくれることが嬉しくて、夏海さんと話せる時間が特別だと思うようになりました。」


自分で訊いておいて最低なのは承知で言うが、…耳がこそばゆくて、聞いていられない。
憧れてくれるのは嬉しいことだ。
それなのに、嬉しいよりもなんだか恥ずかしい。


…顔が、頭が、頬が…熱い。熱くて熱くて仕方がない。夏の暑さとは違う〝熱さ〟


「…夏海さん?」

「わ、私、ちょっとトイレ…。」

「な、夏海さん!?」


だめだ、これ以上は。
こんなに真っすぐに気持ちをぶつけられて、どうしていいか分からない。
…一人で冷静になりたい。頭を整理したい。
その気持ちだけで私は彼の声を振り切り、小走りで人混みの方へと向かって行った。