灯火-ともしび-

「…あんた、凄いわね。」

「何がです?」


火照った顔のまま、手を顔から離して私を見る。


「人に簡単に〝好き〟って言えて。」


私は言えない。物には言えても、人には…言えない。


「…簡単に言っているように見えます?」

「…あ、違うよ。想いが適当とかそういう意味じゃなくて。」

「分かってますよ。夏海さんは人の気持ちに敏感ですから。」


燈祭りのメイン会場となる燈籠神社(トウロウジンジャ)に歩みを進めれば進めるほど、灯りが増していく。
道路に飾られる提灯の数が増え、より彼の表情が見える。


だから分かる。
いつもよりもずっと穏やかで大人びた微笑み。


「簡単じゃないです。口にするのは。
それでもやっぱり特別になりたいじゃないですか。
そのために頑張れます。」


その眼差しは、私が知っている安達風馬ではない。
もっと別の誰か。
それでもその誰かを怖いとも嫌だとも思わない。
ただ、私が彼のこの表情を知らなかっただけ。


…胸がざわつく。
ドクドクと流れる血液の量がおかしい気がする。


「到着です。何食べましょうか?」

「たこ焼き、かな。」

「俺も丁度そう思ってました。探しましょう。」


灯りまみれのこの道を歩くのが辛い。
どうしよう。頬が異常なほど熱い。