灯火-ともしび-

「…よくそんなセリフ言えるわね…。」

「だって本当のことですし、ちゃんと言葉にしないと夏海さんは信じてくれないでしょう?」

「それは…ま、そうだけど。」

「じゃ、行きましょうか、燈祭りに!」

「そうね。」


ちょっと蒸し暑いくらいの気温に湿度。
コンディションは私の好きなものとは決して言えないけれど…帰りたいなんて思わない私はやっぱりどうかしている。


カランコロンと下駄がいつもとは違う足音を奏でる。
いつもは一人で歩く道が今日は隣にいる男のせいで、見えるものも半分だ。


「浴衣で来るの大変じゃなかったですか?」

「大変か大変じゃないかの二択ならもちろん大変よ。
でも、ちょっと風流でいいわよね。」

「え…?」

「こういう装いって何が特別なことがないと出来ないじゃない。
だから、こうやって祭りとかそういう日に着るっていいかもって思ったの。」


これは本当に正直な気持ちだ。
面倒ではあるし、歩きにくさだって普段着の比じゃない。
それでも浴衣が愛されるのは、その美しさやそれそのものが日本に根付いているからだと思う。


「結構無理矢理誘ったんですけど…怒ってません?」


少し目尻を下げて、まるで落ち込んだ忠犬のような顔をして訊ねてくる。


「怒ってない。むしろ…ありがとう。
あのくらいの強引さがなきゃ来なかったわ、多分。」


なんだか気恥ずかしくって目が泳ぐ。
それでも伝えるべきことは伝える。
そうして私は生きてきた。