灯火-ともしび-

* * *


駅前は人で溢れていた。
…とはいっても地元的に言えば、というレベルだけれども。


駅前を待ち合わせ場所にしたのは少し間違っていたかもしれない。
私、あいつを見つけられ…


「夏海さん!」





多くの声が交差していく中で、奴の声だけが妙によく響く。
声のした方を見つめれば、満面の笑みを浮かべたあいつが大きく手を振っている。
…しかも向こうから駆け寄ってくる。


「夏海さん!」

「…そんな呼ばなくても大丈夫。分かってるわよ。」

「早いですね。まだ10分前ですよ?」

「そんなこと言ったらあんたの方が早いでしょ?」

「それはまぁ…でも夏海さんの浴衣想像したら家に居られなくなって、気付いたらここに…。」

「…何その発言。なんか変態みたい。」

「容赦ないなぁー…夏海さん。」


そう言いながらも笑顔はそのまま。
そんな奴の姿も…


「浴衣…?」


グレーに近い色のシンプルな浴衣。
帯の黒がとても締まって見える。


「夏海さんにつり合うようにと思って。
浴衣着てきてくれてありがとうございます!すごく綺麗です。」


また優しく微笑んでそう言った。
…恥ずかしさとかそういう一般的な感情はこいつにないのだろうか…?