灯火-ともしび-

* * *


時間は5時15分。
浴衣は着用済みだ。残すはメイクのみ。


「…本当に女って面倒だわ。」


メイクにしたって洋服にしたって髪型にしたってそうだ。
女は面倒なことが多い。
男は別にすっぴんでもすっぴんだとは言われないし、髪型だって寝ぐせさえ直せばとやかく言われない。
それなのに女は巻いてみたり結わえてみたりと色々しなくては〝可愛い〟とは言われない。
…まぁ私はしないのだけれど。〝可愛い〟なんて言葉は私には必要ない。


「…ま、さくっとさくっと。気張っても気持ちが悪い。」


下地からファンデーション。目元はすっきりと。
どうせ暗くてよく見えやしない。華美になるのだけは御免だ。


いつも通りぱっぱとメイクを済ませ、鏡を見る。


いつも通りのメイクのはずなのに、いつもと顔が違って見えるのはおそらく髪型の及ぼす影響ゆえだ。
…小夏は本当に凄い。最近は特によく頑張っている。


「…上手くいくといいね、小夏。」


頑張ってもいたけれど、悩んでもいたから。
だから姉としては妹の笑顔を願ってやまない。


「さて、私も行こうかな。」


持ち物はケータイと財布。そしてハンカチとティッシュ。
それらを巾着に入れて上をきゅっと結ぶ。


慣れない下駄に足を通し、一呼吸。


「…お姉ちゃん、綺麗っ…!」

「え、あ…そう?いつもと違うのは髪型のおかげかも。ありがとう。」

「ううんっ!行ってらっしゃい!」

「うん。行ってきます。小夏も楽しんでね。」

「…うん。」