熱が帯びる頬に手を添えて必死に胸の高鳴りを抑える。日常茶飯事に『可愛い』とか『綺麗』なんて言葉はお世辞で良く言われているが、不意討ちすぎる。




一体何が翔のホスト魂に火を付けたのやら。


私の巻き髪?巻き髪で火が付いたの?ただの巻き髪で?―――――――――――これからはストレートにしよう。巻き髪は当分封印。プライベートのみで。




狙ったような媚薬のような囁き。反則すぎる。不意討ちとか卑怯だ。ドキドキと胸が高鳴るのは翔だからとかではなく女なら誰しも、こうなるだろう。不意討ちな甘い囁きに酔いしれる私は滑稽。


私の気持ちなんて露知らず飄々としている翔。そして不意にドアの方に目をすると――――――――――――‥‥‥









「あ。おい、蕾。客。」




と、顎で示した。


どうやら今度は教えてくれたみたいだ。そうでなきゃ困るけどね。――‥ウィーーンと左右に開いた自動ドア。数人のお客様が談笑しながら入って来た。今度は余裕を持って対処出来るよ。


酔いを振り切り私は爽やかな笑顔で接客しようと頬を緩ませた。






「いっらっしゃいま―――」






この瞬間、私の頬が引き攣った。









6人のお客様。

私の母校でもある光陽の制服。

肩には大きめのテニスバックが。きっと何本も愛用のラケットが入ってるに違いない。

一人一人の個性が強いのに六人も揃えば近寄りがたい。

芸能人顔負けのオーラを放っている。そしてどこか神々しさがある。とても一介のファーストフード店に来るような人達とは思えない







「すみません。」




特にこの金髪の美少年。


ハンバーガーなんて似合わない。ナイフやフォークを使ったお上品な料理の方が相応しい。


思わず同じ生き物なのかと目を疑ってしまいたくなる美少年――――――――――司くんが青い瞳を細めて微笑んだ。














「蕾さんをひとつ。」

「お帰りください。」



可笑しいだろ!?


私の耳が故障したのかと思ったが故障したのは司くんの頭の方だ。余りにも優雅で綺麗に微笑んだから何を頼むのかと思ったら‥‥


吃驚したよ。自然な言動で注目するから一瞬頷きそうになったし。




まず【蕾】なんて気持ち悪いメニュー存在しませんよお客様。


合ったら怖い。寧ろ赤字で店を畳まなくては為らなくなる。廃業寸前の赤字オンパレードだよね。