「どうした?」

「っううん。早く行こ!」

「拉麺は逃げんよ」

「食い意地が張ってるの!」

「ははっ。自分で言うな」





背を押して車に乗るように託す。赤が青に変わる。それと同時に足を踏み出す3人の姿が見えた。



何もこの近くに住む彼等が繁華街に居たとしても可笑しくはない。でも今は信じ難い。まさか逢うとは微塵も考えに無かった。





「ほら。蕾」

「あ、うん」





後ろ髪が引かれるまま開けられた扉に乗り込む。



車内は桜子のようにゴチャゴチャしておらず香りも座り心地も私には場違いなような気がした。流石高級車。鷹見沢さんの清潔性が溢れた気配りもある。



でも私には飲み掛けのジュースや雑誌、変な飾りでゴチャゴチャの桜子の車の方がお似合いかも。



運転を変わったとき桜子の車を当てても恐くない。車を傷つける事に申し訳無い気はするけど。





「寒いかい?」

「大丈夫」





運転席に乗り込み車に入って来た鷹見沢さん。



何かしら音楽を掛けてくれるのかオーディオを弄っている。



横目でミラーを見ると人混みを掻き分けて走ってくる3人が映っている。表情は遠目で見えないけど周囲の人が気迫に押されている。





「ね、早く行こうよ」





近付いてくる3人を横目に鷹見沢さんを託する。急かす私に笑いながらハンドルを握る。



車の冷房も利いている。徐々に冷えて来た車内。薄着のせいか肌寒い。薄パープルのフレアスカートから素足が覗いている。夏と言う事もあり全体的に露出している為体温が下がる。



付いた車のランプのを見たせいか心なしか3人のスピードが上がったような気がした。





「いいのかい?」

「え」

「後ろに居る子達は蕾の知り合いのように見えるよ?」

「………」






………気づいていたのか



気づかない筈がないか。



静かに頷いた私に苦笑いしながらゆっくりと車を発進させる。



私より何倍も人生経験を積み重ねて来ている鷹見沢さんからしたら私は子供なんだろうな。下らない維持とかプライドとか。ちっぽけな人間だと蔑まれても仕方ない。鷹見沢さんはそんな卑劣な人では無いけど。



ミラーを見ると立ち止まる気配のない3人。車を追い掛けてくる。―――微かに隣に座る鷹見沢さんが笑った気がした。