「……さ、桜子さん?」





何かヤバイ雰囲気?


恐る恐る声を掛けるが桜子からはただならぬオーラを感じる。


潰れた空き缶を地面に落としヒールで更に踏み潰すと―…












怒声を響かせた。



「鬱陶しい!!静かにしろ!!」











シ―――――……ン





「フンッ」

「………」




開いた口が塞がらない。目が出目金のように飛び出ている。今なら出目金に為れる。水槽の中で飼われる金魚にも為れる。お祭りで金魚すくいで弄ばれる金魚に為れてしまうくらいに驚いている。





腰に手を当て満足気に仁王立ちする桜子の隣で、私はあたふた。





な、何してるんですか桜子さん。そ、そこで何故叫ぶ!?
ち、ちょっと我慢しようよ。
ほ、本気で頼む。
お、大人しくしてくれ。



合言葉はナソチホーだよ。





「ナソチホー。ナソチホー。」

「ぶつぶつ煩い」





桜子に睨まれ一刀両断。


ただのお茶目なジョークなのに。


こんなやり取りをしているのは私達のみ。桜子の怒声に選手含むコート外の女の子達は固まっている事に気付いた。


それに加えて犇々と四方八方から視線を感じる。自然と集まる視線に気づいた桜子は不敵に笑う。










「きっと私が美しすぎて魅せられてるんだわ。」





貴女の罵倒に吃驚してるんだよ。





「素敵な頭だね」

「何ですって!?」

「いでででで!」





いった!痛い!耳引っ張るな馬鹿!て言うか足!足!足痛い!桜子ヒールなのに……っ!


思わず口に出てしまった言葉を聞かれて容赦なく耳を引っ張られた。オマケにグリグリと踵で足を踏まれ痛みに悶える。


痛む耳を抑えてテニスコートに目を向ければ――――――――あ。





司くんと、目が合った。


ベンチから起き上がった翼も目を見開いて此方を見ている。


良く見ればコートにいる朔君達からの視線も感じる。








「あちゃー」





額に手を当てお気楽な声を出す。だけど内心は台風直下前の暴風警報域。木々が投げ倒されて嵐になっている。ビュービュー!と風が吹き荒れている。





しくじった。


最悪。どうするんだよ桜子。





「行くわよ」

「え!?」




どこに!?


まさかの逃亡計画ですか?空気を凍らせるだけ凍らせといてまさかの逃亡!?嘘!?て言うか私どうなるの?まず何処に行くつもり?


こうして襟首を掴まれ私は不可抗力でテニスコート付近から離れる。後ろから犇々と突き刺さる視線を振り切り、足早に去って行った――――――――――――――――――――――――――――――――――…