「僕は大丈夫だよ。心配しないで」

 賢司は白い歯を見せて、精一杯の笑顔を作った。

「こんなことになってしまって、ゴメンね」
 倫子は賢司の衣服を直しながら言った。

「ううん、お母さんの方こそ、無理しないで」

「本当にゴメンね。必ず迎えに行くから。必ずだから、お母さんを許して…」
 倫子は言葉に詰まりながらも、両手を子供の両頬に当てて言った。
 そして、その小さな体を、引き寄せ、抱き締めた。



第九話 『ベイビードールの誘惑』

完結