新撰組のヒミツ 弐

一方、吉村は念願の大吉を獲得し、歓喜の表情だ。斎藤は表情こそ変えないが、悪くはなさそうである。安藤は顔を青くして神木におみくじを括り付けていた。もしかしたら凶だったのかもしれない。


原田はというと、ひどく悔しそうな表情をしていており、他の人たちの結果を聞きまわっている。


「山崎、お前はどうだ?」
「大吉です」


自慢するでもなく、さらりと返ってきた答えに原田は頭を抱えて天を仰いだ。


「ちきしょう、何で俺は吉なんだ」

「運が上がる余地があるじゃありませんか。これからの頑張りで運勢は大吉にもなるでしょう」


山崎が柔らかい声音で励ますと、原田は一つため息を吐いて苦笑した。


「それもそうだよな。──井岡、お前は?」

「……白紙でした」


衝撃を押し隠し、無表情で淡々と告げる光に、周りの男たちは目を輝かせてうおおおと歓声を上げた。


「強運だな。白紙は滅多に無いはずだが」

斎藤が光の白紙の籤をまじまじと見て、感心したように言う。すると、原田が何かを閃いたようだった。


「そう、これはあれだ。お前の人生は自分で決めろっていう、紙の御告げなんだろうな」
「面白くありません」


光は原田の洒落に絶対零度の微笑みを返した。わざとらしく原田が身体を寒そうに摩ると、周囲からまばらな笑い声が起こる。内心、光は人の感情の機微に敏い原田に敬服していた。


(私の人生は自分で決める、か)


光は白紙のおみくじを握りしめた。これは、偶然引いたのではないと思う。


本来、光はこの時代にいない人間。この時代に生まれた人間とは違い、光の辿るべき運命はまだ定まっていないのではないか。


──運命に縛られていない、自由。


地に足がつかないような気分だったが、悪くなかった。