「俺は提言した。下川が弱くなっていれば始末してしまおう、と。俺達との繋がりを新撰組に知られでもすれば、弱いお前はなす術なく捕らえられ、洗いざらい情報を吐かされるだろうからな」
さらりと吐かれた言葉とは裏腹に、その内容は恐るべきものだった。
危険の芽は排除するに限る、と言うことだろう。
立花に躊躇する心はこれっぽっちも無かったのか。そう思うと、何故か心に隙間風が吹いた。
「実際、お前は弱くなっていた。だが、あの方はお前の力に一定の評価をしている。本当に、あの方はお前には甘いな」
ふん、と鼻で笑われる。いつもの軽い調子ではなく、恐らくは本気で言ったものだろうと感じた。
弱くなっていたというのは、光が原田らと巡察をしていたとき、立花と手合わせをしたことだろう。
立花は光の力量を測り、その上でさして生かすに値する力は無い、と判断した。
今、光が生きているのは、主の気まぐれなのだ。己の弱さと主の非情な情けを認めたくない気持ちで、光は拳を握る。
「お前にある選択肢は一つのみ。そうすれば、矢武鹿助の情報も更に掴めるだろう」
つまり、それは新撰組を裏切り、情報を流すということ。
(馬鹿な......!)
自分が裏切り行為を働いている場面すら想像したくない。仮宿のつもりだった新撰組が、今の光には大事な居場所なのだから。
何より、守りたい人を守るために。
「......私には新撰組は裏切れない。それに、もう先生のことはいいんだ。復讐なんて憂さ晴らしに過ぎないと分かった」
「いいや、良く考えろ。今のお前の言葉は感情に任せているだけだ」
「違う。もう、先生の影は追わないと決めたんだ」



