「一つ、新撰組の巡察に関する情報を流すこと。二つ、新撰組に気取られぬように行動すること」
一瞬の間をおいて、光は頬を紅潮させた。無論、怒りによるものである。
「そんな条件を呑める訳がないだろう! 私とお前たちは立場が違う」
あまりに馬鹿馬鹿しい条件に、光は声を荒げた。何より、その条件を真っ正直に言ってきたことが驚き呆れる。
(率直に言えば、スパイになれってことか。奴は、私を誇りも何も無い人間だとでも思ってるのか?)
あるいは、光がこのことを新撰組に漏らさないと確信しているのだろうか。
怒りと共に、遣る瀬無さがこみ上げてきた。自分を見つめる立花の目には、依然として冷たい感情がある。
だが、かつての光の行いを考えてみれば、立花の軽蔑も仕方の無いことだと言えよう。
光を責めているような両の目を不快に感じ、直ぐに光は手を引き抜いた。
......離れてしまった手は、もう二度と元には戻らない予感がした。
「呑めないじゃなくて呑むんだ。お前に慈悲をお与えになった主に感謝こそすれ、断るなど言語道断だ」
冷徹な目が光を見た。ふざけた笑みなど無く、純粋な敵意が表れている。



