「......一体、それはどういう......。私は......あの方にとって邪魔な存在だった?」
突然、足元が崩れていく錯覚と、前後上下が曖昧になる感覚に襲われた。脳裏で何度も主の人形のような横顔が鮮烈に何度も蘇る。
光の変化に目敏く気付いた立花は、首を何度も横に振り、握っている光の手に頭を預けた。
「......いや、これは忘れろ。俺が口に出来ることではなかった」
立花の顔は見えない。だが、気のせいだろうか、その声は何かを押し殺したようにも聞こえた。
立花は直ぐに顔を上げ、気を取り直すように一息を吐く。その顔にはいつものように人を喰ったような表情が浮かんでいた。
「とにかく、お前は脱走して以来、お雪様の手のものに常に命を狙われていた。矢武鹿助がそうだったようにな。だが、お前の新たな住処は新撰組屯所。やすやすと手出し出来るはずもなく、監視するしか方法がなかった」
監視か、と光は呟いた。そうだ、と立花は言う。両者の言葉は乾燥していた。
そこで、光ははたと思いついた。
以前、屯所で何度か感じた殺気のようなもの。あれは、もしかすると主の手のものが、光の命を奪う機会を窺っていたのかもしれない。
そう思うと、今更ながら光は背中に冷たいものが走る。主のことだ、光の実力を凌駕するものを送り込んでいたのだろう。
「......お雪様は条件付きで、逃げたお前をお許しになった。命を狙うのをやめ、矢武鹿助に関する新たな情報を教える、と」
「条件?」



