触れ合う手と手に目を遣る立花は、光の手を手持ち無沙汰に弄ぶと、おもむろに口を開いた。
「──矢武鹿助は、役人だった。人望があり、勤務態度は真面目、武芸に優れていた」
役人。光は首を傾げる。
大きな屋敷を構えていたことからも容易く想像はついたが、彼が働くために外出することは見たことが無かった。
すると、立花は荒れた指で光の指の腹を軽く撫でる。
「表向きはそうだったが──。
奴は、元は暗殺を生業とする一家に生まれ、奴も暗殺で身を立てていた。
二十歳を過ぎた頃からは、尊皇攘夷を掲げる公家や長州、水戸と通じ、開国を主張する弱腰な幕府高官の暗殺に加担していたらしい」
「……暗殺……?」
光は、息を呑んだ。
光に手をさしのべてくれた鹿助が、暗殺という恐ろしいものに携わっているなど、想像だにしなかったが、嘘にも思えなかった。
彼の流派は一撃必殺、あの動きは忍んで敵を滅するものであるのは、光も理解していた。そう、例えば暗殺のような。
「そうだ。だが、奴はある日突然、暗殺から足を洗った。何故かは分からない。公家や長州とも手を切り、人目を逃れるように山奥に引きこもった」
立花がにやりと笑う。いつもの人を苛立たせる、ふざけた種類の笑みだ。
「──お前も分かるだろう? 多くの内部事情を知る者が、突然姿を眩ますなど、公家や長州が許すはずもなかった。いい例が、お前ら新撰組の局中法度だ」



