立花は下世話にせせら笑う。
違う、と叫びかけた光は、これらの会話が不毛なやり取りであることにふと気付いた。真面目になって言い返すだけ無駄である。
光はさっと湧いた苛立ちをこらえ、眉間に力を入れて立花を睨んだ。
「……私が年増だろうがなかろうが、良人がいようがいまいが、あんたには一切関係無い。──そろそろ意味のある話がしたい」
「そう、急くなよ」
「……あんたと関わり合うことには危険が伴う。仲間に知られてしまえば──私の立場は無い。……早く、先生のことについて教えてくれ」
しばし二人は睨み合うように視線を重ねたが、とうとう耐え切れなくなったように視線を反らしたのは、立花だった。
立花は、その手に持っていた箸を置き、机に肘を付いて頬杖を突く。
光の目線より僅かに低くなった位置から見上げてくる立花に、光は落ち着かない気持ちにさせられた。
一瞬だけ、立花の笑みが消え失せる。
伏せられた目と真っ直ぐに結ばれた薄い唇、僅かに日に焼けた精悍な顔立ちから感じられる翳りに、光は無意識の内に手が伸びていた。
「……」
乾燥している立花の褐色の硬い指を、光は自分の指に絡めて握る。
自ら触れたい、などと思うのは、他人との接触を苦手とする光にとっては珍しいことだった。
心と立場は離れているのに、褐色の指と白い指が繋がり、離れ、また強く繋がる。
そんな意味も無い行為は、そうする理由もまた無い行為だった。
違う、と叫びかけた光は、これらの会話が不毛なやり取りであることにふと気付いた。真面目になって言い返すだけ無駄である。
光はさっと湧いた苛立ちをこらえ、眉間に力を入れて立花を睨んだ。
「……私が年増だろうがなかろうが、良人がいようがいまいが、あんたには一切関係無い。──そろそろ意味のある話がしたい」
「そう、急くなよ」
「……あんたと関わり合うことには危険が伴う。仲間に知られてしまえば──私の立場は無い。……早く、先生のことについて教えてくれ」
しばし二人は睨み合うように視線を重ねたが、とうとう耐え切れなくなったように視線を反らしたのは、立花だった。
立花は、その手に持っていた箸を置き、机に肘を付いて頬杖を突く。
光の目線より僅かに低くなった位置から見上げてくる立花に、光は落ち着かない気持ちにさせられた。
一瞬だけ、立花の笑みが消え失せる。
伏せられた目と真っ直ぐに結ばれた薄い唇、僅かに日に焼けた精悍な顔立ちから感じられる翳りに、光は無意識の内に手が伸びていた。
「……」
乾燥している立花の褐色の硬い指を、光は自分の指に絡めて握る。
自ら触れたい、などと思うのは、他人との接触を苦手とする光にとっては珍しいことだった。
心と立場は離れているのに、褐色の指と白い指が繋がり、離れ、また強く繋がる。
そんな意味も無い行為は、そうする理由もまた無い行為だった。



