新撰組のヒミツ 弐

立花は下世話にせせら笑う。


違う、と叫びかけた光は、これらの会話が不毛なやり取りであることにふと気付いた。真面目になって言い返すだけ無駄である。


光はさっと湧いた苛立ちをこらえ、眉間に力を入れて立花を睨んだ。


「……私が年増だろうがなかろうが、良人がいようがいまいが、あんたには一切関係無い。──そろそろ意味のある話がしたい」


「そう、急くなよ」


「……あんたと関わり合うことには危険が伴う。仲間に知られてしまえば──私の立場は無い。……早く、先生のことについて教えてくれ」


しばし二人は睨み合うように視線を重ねたが、とうとう耐え切れなくなったように視線を反らしたのは、立花だった。


立花は、その手に持っていた箸を置き、机に肘を付いて頬杖を突く。


光の目線より僅かに低くなった位置から見上げてくる立花に、光は落ち着かない気持ちにさせられた。


一瞬だけ、立花の笑みが消え失せる。


伏せられた目と真っ直ぐに結ばれた薄い唇、僅かに日に焼けた精悍な顔立ちから感じられる翳りに、光は無意識の内に手が伸びていた。


「……」


乾燥している立花の褐色の硬い指を、光は自分の指に絡めて握る。


自ら触れたい、などと思うのは、他人との接触を苦手とする光にとっては珍しいことだった。


心と立場は離れているのに、褐色の指と白い指が繋がり、離れ、また強く繋がる。


そんな意味も無い行為は、そうする理由もまた無い行為だった。