とうに失われた昔に思いを馳せつつ、光はそのようにぽつりと呟いた。
非情と言われようと、悲しみや未練の情は湧き上がらないが、友への僅かばかりの罪悪感という針が光の胸をちくりと刺し、苛むのだ。
立花は、光が失踪したのを知り、一体何を考えたのだろうか。
「私は変わった。あんたは変わらない」
「いや、お前だけが年を経た訳じゃない。俺も、お前が知らない別の場所で生きて年を食った」
その台詞に年を感じた光は、目の前の食事に箸を付けながらも、半眼になって「……あんた、今何歳だ」と問う。
「……そういうお前は?」
「十九」
「ふん、お前も結構な年だな。同年代の女は嫁に行っている年頃だ」
「嫁?」
光は思わず鼻で笑ってしまった。
立花の口から発せられたその言葉ほど、そぐわないものはなかった。
まるで異世界のような──そう、言うならば未来のことのような──話だ。
今まで、何人かの少女に鈍感だ朴念仁だと泣きつかれたこともあったが、自分の本質が女である限り、関係が無かった。
胸さえ痛まず、次の日には忘れている、そのような非情な人間だったのだから。
「いい仲の奴はいないのか」
「そんな人、いるはずが」
──脳裏に一瞬だけ過ぎった顔には、気付かなかった振りをした。幻影から顔を背ければ、胸がにわかに痛み出す。
「……無いだろう」
「嘘臭い」



